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微小脳による環境適応能の理解

研究の目的

分子生物学や神経科学分野の研究は、近年急速に発展をとげてきました。しかしながら、知覚・認識から記憶・学習、運動指令へといたる感覚入力から情報処理、行動発現にいたる脳のシステムとしての機能に関しては、未解明な部分が多い。昆虫脳は少数の神経細胞で構成されているにも関わらず、反射から定型的行動、さらには記憶・学習行動のような高度な感覚受容・行動制御機構を実現しており、脳神経系における感覚入力から行動発現に至る神経システム、さらには微小な脳システムによる環境適応行動発現の機構を解析していく上で有用なモデルシステムです。本研究グループは昆虫脳を対象と し、分子レベル、単一神経細胞レベル、神経ネットワークレベル、行動レベルにわたるマルチスケールの分析、さらにそれらの結果をロボットに統合することにより、微小脳による環境適応能を網羅・徹底的に解明することを目的としています。また、このグループの研究は、生体-機械融合グループの研究と相補的に進められており、環境に適応した機能の実現をめざしています。



組換えカイコガを用いた機能的脳神経回路網の解明
 
 

脳内の特定の神経回路の可視化、神経活動の計測、神経活動の阻害を可能にする 遺伝子組換え技術は、多くの神経細胞が複雑に結合したネットワークを形成する脳神経系を解析するための欠かせないツールの 一つになりつつあります。本研究では、カイコガ脳で発現するさまざまな遺伝子のプロモーター領域を利用し、 特定の神経細胞群で外来遺伝子を発現する遺伝子組換えカイコガの作出を行っています。 図は、神経ホルモンである前胸腺刺激ホルモン(PTTH)のプロモーター配列により蛍光タンパク質を発現する 遺伝子組換えカイコガの脳の蛍光写真を示しています。 PTTH神経分泌細胞が特異的に緑色の蛍光で可視化されていることがわかります。
  PTTH産生細胞においてGFPを特異的に
発現する組換えカイコガ
   



昆虫の性フェロモン受容体の識別機構の解明
 
 

昆虫の性フェロモン受容体を利用した高感度かつ高選択性バイオセンサーの作出を目指し、 受容体の性フェロモン識別機構の解明に取り組んでいます。 昆虫は同種の放出する性フェロモン成分を高感度で嗅ぎ分けるセンサータンパク質(受容体)を持ちます。 これまでに、6種の蛾類から性フェロモン受容体を単離・同定しており、 これら受容体が高感度かつ特異的に性フェロモン成分を識別することを明らかにしてきました。 今現在は、アフリカツメガエル卵母細胞2電極膜電位固定法(図)を用いて、受容体の性フェロモン類似化合物に対する応答測定や、 リガンド結合部位の同定を行っています。また、リガンド結合部位に塩基配列の改変を加えることで、 匂い物質を高感度で受容できるセンサータンパク質の開発も試みています。
 
   



光制御による機能的神経回路網の特定
 
 

近年、2種類の光感受性イオンチャネル(ChR2, NpHR)が同定され、 光刺激により神経活動の興奮(ON)と抑制(OFF)を高時間分解能で制御するための分子ツールとして利用されています。 本研究では、これらの技術をカイコに導入するために、 GAL4/UASによる遺伝子発現制御系とトランスポゾンpiggyBacによる遺伝子組み換え技術を用いて、 ChR2とNpHRを特定の神経細胞群で発現する遺伝子組み換えカイコの作出を行っています。 光刺激による神経活動のON-OFF制御を実現することで、 フェロモン源探索行動における神経回路網の機能を同定し、 行動発現のもとにある脳の情報処理機構を明らかにすることを目指しています。
 
光感受性イオンチャネルchannelrhodopsin-2 (ChR2) と halorhodopsin (NpHR)による
神経活動の光制御
   



視認下電極刺入法による
昆虫の中枢ニューロンの網羅的な形態解析
   

従来の単一ニューロンの細胞内染色法は、非直視下でガラス管微小電極を刺入す るもので、非常に熟練を要する技術でした。わたしたちは、近赤外微分干渉顕微 鏡を用いることにより、ニューロンの細胞体を鮮明に可視化し、視認下で電極の 刺入および蛍光色素の注入が行なえるシステムを開発しました。この方法によ り、キノコ体と呼ばれる、記憶・学習などの高次機能に関わる中枢を構成する ニューロンの網羅的形態解析をおこなっています。同一個体における二重染色 や、免疫組織化学と組み合わせることで、ニューロン間の接続の解析や神経伝達 物質の同定をおこなっています。これまでの解析から、キノコ体の内部構造が明 らかになってきています。
 
単一神経細胞への蛍光色素注入
   



昆虫脳における匂い情報処理機構の
電気生理学的解析
 
 

カイコガ嗅覚系の神経群に対し、ガラス微小電極を刺入することによって細胞内外の電位差をとり、各種刺激に対する生理応答を計測します。続いて細胞内に蛍光色素を注入し、共焦点顕微鏡によって神経細胞の三次元構造のデータを取得します。このようにして、in vivo脳における単一神経細胞の機能と構造を知ることができます。特にフェロモンによって解発される定型行動に関して、フェロモン情報をコーディングする触角葉から、運動パターンの指令情報を形成する前大脳側副葉までの全経路において、素子レベルから推測される知見を積み重ね、 それらは光生理学、薬理、行動実験の結果とよい一致をみています。さらに現在、触角葉神経をターゲットとし、フェロモン情報以外の一般の嗅覚情報のコーディング機構についても研究を行っています。
 
細胞内記録法及び染色法
(触角葉を構成する単一神経細胞の形態)
   



脳内全ニューロンのデータベース化
 
 

ガラス微小電極を用いた細胞内記録及び染色法により、各種刺激に対する生理応答特性の取得、蛍光色素の注入による3次元形態の観察が可能です。また、私たちの研究室で開発した視認下電極刺入法(上記)により、任意の細胞に蛍光色素を注入することが可能となりました。これらの技術を用い、カイコガ脳において現在1000を超える単一ニューロンの3次元形態および生理応答特性のデータを取得し、データベースとして蓄積を続けています。 これらの膨大な同定ニューロンの情報と遺伝子、イメージング、行動などマルチスケールな分析との情報統合、 モデル化、シミュレーション技術を用いたネットワークの再構成により脳機能の解明を目指しています。


●当研究室に蓄積されているニューロンの形態データから昆虫脳全体をコンピュータ内で生理的なシミュレーションを行うことを目標にソフトウェアの開発と整備を行っています。(図)
●カイコガは雌フェロモンを受容すると特長的なジグザグ運動が解発されて、雌の位置を探索します。 このジグザグ運動の運動パターンは副側葉(LAL)で生成すると推測されていますが、このパターン生成回路を理論的な観点から研究しています。
●イメージング法を含む新しい神経生理活動の測定法の開発にも参加してます。
 
脳内全ニューロンのデータベース化
   



匂い識別機構解明に向けての
膜電位イメージングによるアプローチ
 
 
昆虫の嗅覚系一次中枢である触角葉の神経ネットワークの活動を高時空間分解能(空間分解能:128x128ピクセル、時間分解能0.6〜2.4 ms/frame)を持つ膜電位イメージング法で直接計測し、触角葉の匂い情報処理メカニズムを考察しています。カイコガの複数種類の薬理操作によるネットワーク特性の抽出、マルハナバチでの匂い刺激時に発生する振動信号の最大エントロピ法による振動領域の分布の調査等を実施しています。カルシウムイメージング法も同時に使用しています。
 
匂い情報の時間空間信号処理
(触角葉における神経活動の膜電位
イメージング)
   



Caイメージングによる運動指令生成機構の解析
 
 

カイコガの脳のLAL(側副葉)という領域は最終的な出力である歩行方向を決定する 非常に重要な役割を果たしています。先行研究では、この領域の単一神経細胞の形態や活動の観測により, 神経回路のモデルが構築されてきました。しかし,従来の単一細胞から情報を得る方法では, このモデル全体のなかでの個々の神経細胞の活動の役割は分からず,機構の解明は困難でした. そこで、Caイメージングという方法を新たに適用することで、複数の神経細胞の活動を同時に観測し、 LAL神経回路の時空間的な活動を明らかにしていきます。
 
   






昆虫脳における匂い情報処理機構の
電気生理学的解析
 
 

カイコガの側副葉(LAL)はフェロモン源探索行動を指令する情報である フリップフロップ応答などの生成に重要なニューロパイル構造である. 本研究では蛍光デキストランを電気的に注入することにより,LALに分枝を持つ複数の神経を選択的に染色し, 共焦点顕微鏡により三次元形態データを取得している. これらの形態データからLALと脳内他領域との入出力関係を調べることにより, フェロモン源探索行動の指令情報生成のメカニズムを明らかにすることを目的としている.
 
   



Work on pheromone information processing and orientation in the male silkmoth
 
 

My major research interests are neural plasticity and the control of behaviour. My past work comprises map reconstruction and plasticitiy inrodent SI cortex (extracellular recordings in vivo), optical imaging with voltage sensitive for a comparative analysis of cortical areas (in rat and mouse brain slices), and an analysis of the gustatory system of the honeybee with special reference to its importance in relaying the unconditioned stimulus in learning experiments (electrophysiology, behaviour, and neuroanatomical tracing). I have also briefly worked with the pharyngeal system of C. elegans. Currently, I am chiefly concerned with pheromone information processing and orientation in the male silkmoth. This topic spans various levels (from intact animal EAGs at the input to motoneurons and muscular effectors at the output) and necessits a wide range of techniques including neuroanatomical tracing, electrophysiology, microstimulation of specific brain areas, and pharmacological manipulations in order to understand how the brain of the silkmoth generates motor control signal sequences resulting in zig-zag walking and looping behaviour, the components that allow the male silkmoth to localise a pheromone-releasing mate with 100% certainty. This robust goal-finding behaviour in the presence of intermittent input and a shallow concentration gradient is futher employed as a model system to implement these desirable properties in autonomous systems. Other projects pursued for some time already include orientation in fiddler crabs to understand path integration and comparative neuroanatomy of arthopods.
 
   



環境適応行動の行動・薬理学的分析
 
 

神経修飾物質は、昆虫の行動解発閾値や行動パターンを修飾したり、またスイッチングする上で重要な役割を果たしています。このような神経伝達物質や修飾物質(セロトニンや一酸化窒素)を脳内に導入する薬理実験と共に行動実験から、その機能を研究しています。これまでに、触角葉に存在するセロトニンの量の変動が行動の閾値に影響を与えているとする結果が得られています。また、脳内のセロトニン濃度の変化が行動の概日リズムの 変化と関連すること、さらにフェロモンの経験がカイコガに慣れを生じ行動閾値が低下することなどを明らかにしました。
  行動と関係する内部機構及び外的な
要因を統合したモデル
   


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